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「男らしさ」「女らしさ」のモヤモヤ、正体は「コアジェンダー」かも?科学が解き明かす「本当の自分」の見つけ方。

core-gender 雑記
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「男だから」「女だから」という言葉に、ふと心がざわつく。

社会が用意した「男性」「女性」という箱に、自分の心がうまく収まらないような感覚。

あなたも一度は、そんな風に感じたことはありませんか?

それは、まるで既製品の服が自分の体に合わないような、小さな、でも確かな違和感。多くの人が、その違和感を「気にしないようにしよう」「自分が我慢すればいい」と心の奥に押し込めてしまいます。

しかし、もしその違一感が、あなたという人間の**「核(コア)」**に触れる、非常に大切なサインだとしたら?

この記事で掘り下げる**「コアジェンダー(Core Gender Identity)」**は、まさにその「核」に関わる概念です。日本語では「核となる性自認」と訳せるこの言葉は、私たちの最も深く、揺るぎない部分にある「自分は何者であるか」という性別の感覚を指します。

これは、トランスジェンダーやノンバイナリーといった、ジェンダーマイノリティと呼ばれる人々だけのものではありません。シスジェンダー(生まれた時に割り当てられた性別と性自認が一致する人)を含め、すべての人に関わる、自己理解の根幹をなすテーマなのです。

この記事では、あなたを深い自己探求の旅へと誘います。

  • 第1章: ジェンダーの地図を広げよう。セックス、ジェンダー、SOGIの基本
  • 第2章: ついに本題へ。「コアジェンダー」とは、一体何者なのか?
  • 第3章: 魂の性の起源。コアジェンダーはいつ、どうやって生まれるのか?(脳科学・心理学)
  • 第4章: 4人4色の物語。多様なコアジェンダーのリアルなケース
  • 第5章: なぜ今、私たちはコアジェンダーを理解する必要があるのか?

最新の科学的エビデンスと、共感を呼ぶリアルな物語を通して、あなたの心の中にあるモヤモヤを晴らす光を見つけていきましょう。この長い旅路の果てに、あなたはきっと、これまで以上に自分を深く愛し、他者を心から尊重できるようになっているはずです。

それでは、始めましょう。


第1章:ジェンダーの地図を広げよう。セックス、ジェンダー、SOGIの基本

「コアジェンダー」という核心に迫る前に、まずは私たちが立っている場所を確認するための「地図」を手に入れましょう。ジェンダーの話は、いくつかの言葉が混同されて使われがちで、それが混乱の元になっています。ここで基本をしっかり押さえておけば、この先の旅がずっとスムーズになります。

① 生物学的性(Sex):体の性

これは、多くの人が「性別」と聞いて真っ先に思い浮かべるものでしょう。染色体(XX型、XY型など)、性腺(卵巣、精巣)、性ホルモン、内外の性器といった、身体的な特徴によって判断される性別のことです。出生時に「男の子ですね」「女の子ですね」と判定されるのは、この生物学的性に基づいています。英語では Sex と呼ばれます。

しかし、この生物学的性でさえ、実はくっきりと二つに分けられるわけではありません。染色体がXXY型であったり、男女両方の性的特徴を持って生まれたりする**インターセックス(DSDs:性の分化・発達における身体的状態の多様性)**の人々もいます。このことからも、私たちの身体は元々、グラデーション豊かな多様性を持っていることがわかります。

② 性自認(Gender Identity):心の性

ここからが「ジェンダー」の話です。性自認とは、自分自身の性別をどのように認識しているか、という内的な感覚のことです。これは、他人が外見から判断するものではなく、自分自身だけが感じられるものです。

  • 自分の性を「男性」だと認識している人
  • 自分の性を「女性」だと認識している人
  • 自分の性を「男性でも女性でもない」と認識している人(ノンバイナリー)
  • 自分の性を「時によって流動する」と感じる人(ジェンダーフルイド)
  • 自分の性に特定の名前をつけない人

など、そのあり方は無限にあります。この性自認と、先ほどの生物学的性が一致している人がシスジェンダー、一致していない人がトランスジェンダーと呼ばれます。

③ 性表現(Gender Expression):見せる性

これは、服装、髪型、話し方、振る舞いなど、自分自身がどのような性別として他者に見せたいか、という表現のことです。

例えば、性自認が女性の人でも、パンツスタイルを好み、短い髪型で、力強い話し方をするかもしれません。逆に、性自認が男性の人でも、メイクを楽しみ、優雅な言葉遣いをすることもあります。性表現は、必ずしも性自認と一致するとは限りません。社会が押し付ける「男らしさ」「女らしさ」の枠を超えて、誰もが自由に自分を表現する権利があります。

④ 性的指向(Sexual Orientation):好きになる性

これは、どのような性別の人に恋愛感情や性的魅力を感じるか、ということです。異性を好きになる「ヘテロセクシュアル」、同性を好きになる「ホモセクシュアル(ゲイ、レズビアン)」、男女両性を好きになる「バイセクシュアル」、すべての性別を好きになる「パンセクシュアル」、他者に恋愛感情を抱かない「アロマンティック」、性的魅力を感じない「アセクシュアル」など、これもまた非常に多様です。

重要なのは、性自認と性的指向は全く別の次元の話だということです。例えば、トランスジェンダー男性(女性として生まれたが、性自認は男性)が女性を好きになる場合、彼の性的指向はヘテロセクシュアル(異性愛)です。

これらの4つの要素をまとめた概念が SOGI(ソジ) です。Sexual Orientation(性的指向)と Gender Identity(性自認)の頭文字を取った言葉で、性のあり方が多様なグラデーションであることを示す、とても大切な概念です。

さあ、基本的な地図が手に入りました。これで準備は万端です。いよいよ、この地図の中心にある、最も神秘的で根源的な大陸、「コアジェンダー」へと足を踏み入れていきましょう。


第2章:ついに本題へ。「コアジェンダー」とは、一体何者なのか?

前の章で、私たちはジェンダーが多様な要素で構成される、複雑で美しいものであることを学びました。性自認、性表現、性的指向…。では、その中でも特に「コアジェンダー」とは、一体どの部分を指すのでしょうか。

「魂の性」とも呼ばれる、揺るぎない自己感覚

**コアジェンダー(Core Gender Identity)とは、一言で言えば、「自分という存在の核となる、最も深く、不変の性別の感覚」**です。

これは、後から学んだり、誰かに教えられたりするものではありません。まるで心臓が体の中心で鼓動を続けるように、意識の奥深くで「自分は〇〇だ」と静かに、しかし確かに響き続ける声のようなものです。

心理学者や精神科医は、この感覚が非常に早い時期、多くは2歳から4歳頃には形成され始めると考えています。これは、子どもが「男の子」「女の子」という社会的なラベルを理解するよりも前に、内側から湧き上がってくる、より本質的な感覚です。

例えば、幼い子どもが「ぼく、おんなのこなんだよ」とか「わたし、ほんとうはおとこのこ」と、何のてらいもなく口にすることがあります。大人は「子どもの気の迷い」と片付けてしまいがちですが、それはまさに、彼らの内なるコアジェンダーが発した声なのかもしれません。

性自認(ジェンダー・アイデンティティ)との違いは?

「それって、ただの性自認と同じじゃないの?」と思うかもしれません。確かに、コアジェンダーは性自認の最も中心的な部分であり、密接に関連しています。しかし、そこには微妙ながら重要なニュアンスの違いがあります。

  • 性自認(Gender Identity): 「私は自分を男性/女性/ノンバイナリーだと認識している」という、意識的な自己認識の側面が強い言葉です。成長するにつれて、社会との関わりの中で言葉を獲得し、自分の感覚を定義していくプロセスも含まれます。
  • コアジェンダー(Core Gender Identity): それよりもさらに根源的で、前言語的、直感的なレベルでの感覚を指します。社会的な影響やプレッシャーを受けても、簡単には揺らぐことのない、自己の基盤となる部分です。

例えるなら、コアジェンダーが「地球の核(コア)」だとすれば、性自認は地殻やマントルを含めた「地球全体」の構造のようなものです。地表(=性表現や社会的な役割)は変化することがあっても、中心にある熱い核は変わりません。コアジェンダーとは、まさにその人自身の存在を支える、熱くて固い「核」なのです。

なぜ「コア」という概念が必要なのか?

この「コア」という概念は、特にトランスジェンダーの人々の経験を理解する上で非常に重要です。

彼らが感じる「体の性と心の性の不一致」は、単なる「考え」や「選択」ではありません。それは、自分という存在のまさに核(コア)の部分と、身体という器、そして社会からの期待との間に生じる、根源的な断絶感です。だからこそ、多くの人がホルモン治療や性別適合手術といった医学的な移行(トランジション)を通して、自身のコアジェンダーと身体、そして社会的承認を一致させようと願うのです。それは、本来の自分に戻るための、切実で命がけの旅路に他なりません。

しかし、これはシスジェンダーの人々にとっても無関係ではありません。多くのシスジェンダーの人は、自分のコアジェンダーと生物学的性が一致しているため、普段それを意識することはないでしょう。それはまるで、空気が当たり前にあるように感じられるのと同じです。

ですが、一度立ち止まって、「なぜ私は自分を男性(あるいは女性)だと、疑いもなく感じているのだろう?」と問いかけてみてください。その問いの先に、あなた自身の揺るぎないコアジェンダーの存在が浮かび上がってくるはずです。そして、その感覚が当たり前ではない人々がいることに思いを馳せた時、私たちは初めて、ジェンダーの多様性に対する真の共感と理解の扉を開くことができるのです。

次の章では、この神秘的な「魂の核」が、一体どこからやってくるのか、科学の最前線が解き明かしつつある驚くべき事実へと迫っていきます。


第3章:魂の性の起源。コアジェンダーはいつ、どうやって生まれるのか?(脳科学・心理学)

私たちの心の奥深くにある、この揺るぎない「コアジェンダー」という感覚。それは一体、いつ、どのようにして形作られるのでしょうか?「男の子は青、女の子はピンク」といった社会的な刷り込みだけで、これほど根源的な自己認識が生まれるのでしょうか?

答えは「ノー」です。近年の科学、特に脳科学、内分泌学、遺伝学の発展は、コアジェンダーが単なる社会的な学習の産物ではなく、生物学的な基盤を持つことを強く示唆しています。

もちろん、人間は社会的な生き物ですから、育った環境や文化の影響も無視できません。コアジェンダーの形成は、「生まれ(Nature)」と「育ち(Nurture)」が複雑に絡み合う、壮大な交響曲のようなものなのです。そのメロディを一つずつ紐解いていきましょう。

① 脳の中で起こる奇跡:胎児期のホルモンシャワー

最も有力な説の一つが、**「脳の性分化説」**です。

私たちの体は、母親のお腹の中にいる胎児の時に、その土台が作られます。妊娠初期、胎児の脳は基本的に男女の区別がない「ユニセックス」な状態です。しかし、妊娠中期のある特定の時期になると、精巣を持つ胎児(多くはXY染色体)からはテストステロンという男性ホルモンが大量に分泌されます。

このテストステロンの「シャワー」を浴びた脳は、男性的なパターンへと分化していきます。一方、このシャワーを浴びなかった脳は、女性的なパターンへと分化します。これは性器の分化とは別のタイミングで起こる、**「脳の性分化」**と呼ばれるプロセスです。

このプロセスによって、性行動や攻撃性などを司る脳の領域だけでなく、自己認識に関わる部分にも、性別による違いが生まれると考えられています。そして、この胎児期の脳の性分化の方向性が、その人の生涯にわたるコアジェンダーを決定づけるというのです。

トランスジェンダーの人々の場合は、何らかの理由で、体の性分化の方向性と、脳の性分化の方向性に「ズレ」が生じたのではないか、と考えられています。例えば、体は男性として分化しても、脳は男性ホルモンのシャワーをあまり浴びずに女性的に分化した、あるいはその逆のケースです。

これを裏付ける研究として、**先天性副腎皮質過形成(CAH)**という疾患を持つ女性の例があります。彼女たちはXX染色体を持ち女性の体で生まれますが、胎児期に男性ホルモンを過剰に浴びてしまいます。研究によると、CAHの女性は、シスジェンダーの女性に比べて、男性的な遊びを好み、性自認が男性である、あるいは自身のジェンダーに違和感を抱く割合が有意に高いことが報告されています。これは、胎児期のホルモン環境が、後のコアジェンダーに影響を与えることを示す強力な証拠の一つです。

② 脳の形が「心の性」を物語る?脳画像研究の驚くべき発見

「脳の性分化」は、単なる仮説ではありません。近年のMRIやfMRIといった脳画像技術の進歩は、その証拠を次々と明らかにしています。

スペインの研究者グループが2011年に行った画期的な研究では、トランスジェンダー男性(FtM: Female-to-Male)とトランスジェンダー女性(MtF: Male-to-Female)の脳構造を調べました。その結果、驚くべきことがわかりました。

  • トランスジェンダー女性の脳は、シスジェンダー男性の脳とは異なり、シスジェンダー女性の脳のパターンに近い特徴を示したのです。
  • 逆に、トランスジェンダー男性の脳も、シスジェンダー女性とは異なり、シスジェンダー男性の脳のパターンに近い特徴が見られました。

特に、自己認識や身体イメージに関わる**「脳島」「前帯状皮質」**といった領域で、自認するジェンダーとの関連性が見られたことは注目に値します。つまり、彼ら・彼女らの脳は、生まれる前から、自認する性の脳として配線されていた可能性が高いのです。

これは、トランスジェンダーであることが「気のせい」や「精神的な問題」なのではなく、明確な生物学的基盤を持つ、その人固有の特性であることを科学的に裏付けるものです。

③ 遺伝子はジェンダーの設計図か?

親から子へと受け継がれる遺伝子も、コアジェンダーの形成に関与している可能性が指摘されています。

双子を対象とした研究では、一卵性双生児(遺伝情報が100%同じ)は、二卵性双生児(遺伝情報が約50%同じ)に比べて、二人ともトランスジェンダーである確率(一致率)が高いことが示されています。これは、ジェンダー・アイデンティティの形成に、遺伝的な要因が関わっていることを示唆しています。

ただし、現時点では「ジェンダー遺伝子」のような、特定の単一の遺伝子が見つかっているわけではありません。おそらく、身長や知能と同じように、多数の遺伝子が複雑に相互作用し、ホルモン感受性などに影響を与えることで、間接的にコアジェンダーの形成に関わっているのだろうと考えられています。

④ 「育ち」の役割:社会という鏡

では、生まれた後の環境、つまり「育ち」は全く関係ないのでしょうか?そんなことはありません。

子どもは、親や周囲の大人、メディアなど、社会という鏡に自分を映し出しながら「自分とは何か」を学んでいきます。その過程で、「男の子はこうあるべき」「女の子はこうすべき」というジェンダー・ステレオタイプを内面化していきます。

しかし重要なのは、この社会的な学習がコアジェンダーを「作り出す」というよりは、既に存在するコアジェンダーの「表現」や「受容」に影響を与える、という点です。

例えば、コアジェンダーが女性である子どもが、男性の身体で生まれたとします。周囲は彼を「男の子」として扱い、男の子らしい振る舞いを期待します。彼はその期待に応えようと努力するかもしれませんが、内なるコアジェンダーとの間に生じる不協和音は消えません。その結果、強いストレスや自己否定感を抱えることになります。

逆に、周囲の大人がその子のありのままのジェンダー表現を受け入れ、肯定的な環境を提供すれば、その子は自己肯定感を育み、健やかに成長することができます。つまり、「育ち」の役割は、その子の内なるコアジェンダーを肯定し、開花させるための土壌を育むことにあるのです。

このように、私たちのコアジェンダーは、胎児期の脳の配線という生物学的な青写真に基づいており、それが成長過程における社会的な経験と相互作用することで、唯一無二の「私」というアイデンティティを形作っていきます。それは、決して誰かが勝手に決めつけたり、変えさせたりできるものではない、尊い魂の輝きなのです。

次の章では、理論から離れ、具体的な人々の人生の物語を通して、多様なコアジェンダーがどのように生きられるのかを見ていきましょう。


第4章:4人4色の物語。多様なコアジェンダーのリアルなケース

科学的な探求は、私たちに普遍的なメカニズムを教えてくれます。しかし、コアジェンダーが本当に意味を持つのは、一人ひとりの人生という物語の中でです。ここでは、4人の架空の人物を通して、多様なコアジェンダーがどのように経験され、表現されるのかを見ていきましょう。これらは特定の個人の話ではありませんが、多くの当事者の声に基づいた、リアルな物語です。

ケース1:悠真(ゆうま)さん・32歳・トランスジェンダー男性

物心ついた時から、悠真さんは自分が「女の子」であることに、ずっと違和感を抱いていました。ままごと遊びよりも泥だらけで走り回ることが好きで、スカートを履かされるのが苦痛でたまりませんでした。母親に「ぼく、ほんとはおとこのこなんだ」と言っても、「変なこと言わないの」と笑われるだけでした。

決定的な苦しみが訪れたのは、第二次性徴期。胸が膨らみ始め、初潮が来た時、悠真さんは自分の体が裏切り者のように感じました。「これは自分の体じゃない」。鏡に映る姿を見るのが嫌で、ダブダブの服で体のラインを隠し、心を固く閉ざすようになりました。

大学進学を機に親元を離れ、インターネットで自分と同じような感覚を持つ人々がいることを知ります。「トランスジェンダー」という言葉に出会った時、雷に打たれたような衝撃を受けました。「これだ。俺は、これだったんだ」。それは、長年自分を苛んできた孤独な霧が晴れるような瞬間でした。

悠真さんは勇気を出して、専門のクリニックの扉を叩きました。カウンセリングを受け、自身のコアジェンダーが男性であることを確信。両親にカミングアウトするのは大変な道のりでしたが、彼の苦しみと決意を知り、少しずつ理解を示してくれるようになりました。

現在はホルモン治療を受け、声は低くなり、筋肉質な体つきに変わりました。名前も戸籍も男性として変更し、職場の同僚にも、ありのままの自分として受け入れられています。悠真さんは言います。

「昔は、自分のことが大嫌いでした。でも今は、やっと自分自身と和解できた気がします。ホルモン注射は痛いし、まだまだ社会の偏見も感じる。でも、自分の魂の形と、体の形が一致していく感覚は、何物にも代えがたい喜びです。俺は、やっと俺の人生を始めることができたんです」

悠真さんの物語は、コアジェンダーと身体、社会的な性が一致することが、一人の人間の尊厳にとっていかに重要であるかを教えてくれます。

ケース2:あかりさん・24歳・ノンバイナリー(Xジェンダー)

あかりさんは、自分を男性だとも女性だとも感じていませんでした。幼い頃から「女の子らしくしなさい」と言われることに反発を覚えましたが、かといって「男の子になりたい」わけでもありませんでした。性別は、あかりさんにとって「どちらでもない」あるいは「どちらでもある」ような、曖昧で窮屈なものでした。

就職活動で、履歴書の性別欄に「男・女」のどちらかに丸をつけなければならないことに、強い抵抗感を覚えました。「なぜ、この二択しかないんだろう」。自分の存在が、社会のシステムから無視されているように感じました。

そんな時、SNSで「ノンバイナリー」という言葉を知ります。男性でも女性でもないジェンダー・アイデンティティを持つ人々のことです。日本では「Xジェンダー」という言葉も使われます。その概念に触れた時、あかりさんは心から安堵しました。

「私だけじゃなかったんだ。私には、名前がなかっただけなんだ」

あかりさんは、自分のジェンダーを「ノンバイナリー」と自認しています。一人称は「私」ですが、英語圏のノンバイナリーの人々が使う代名詞「they/them」の考え方にも共感しています。服装は、その日の気分によってメンズ服もレディース服も自由に組み合わせます。誰かに性別を尋ねられた時は、「自分の性別は、あかりです」と答えることもあります。

「トランスジェンダーの人々のように、身体的な移行を望んでいるわけではありません。ただ、社会が持つ『男か女か』という二元論の枠組みから、自由になりたいだけなんです。私のコアジェンダーは、その枠の外にあります。それを理解してもらうのはまだ難しい時もあるけれど、自分に嘘をつかずに生きられる今が、一番心地いいです」

あかりさんの物語は、コアジェンダーが必ずしも男女の二択ではないこと、そのスペクトラムがいかに豊かであるかを示しています。

ケース3:美咲(みさき)さん・45歳・シスジェンダー女性

美咲さんは、生まれた時から女性として育てられ、自分自身を女性であると認識しているシスジェンダーです。彼女は自分のコアジェンダーについて、これまで深く考えたことはありませんでした。女性であることが、息をするのと同じくらい自然なことだったからです。

しかし、彼女にも葛藤がなかったわけではありません。若い頃は、職場で「女性だから」という理由でお茶汲みを任されたり、重要な仕事を任せてもらえなかったりすることに憤りを感じていました。結婚・出産後は、「母親なんだから」「妻なんだから」という役割期待に押しつぶされそうになったこともあります。

最近、娘が学校の授業でSOGIについて学んできました。娘との会話を通して、美咲さんは初めて、自分の「女性である」という感覚が「コアジェンダー」なのだと知りました。そして、自分がこれまで感じてきた息苦しさの正体が、自分のコアジェンダーそのものではなく、社会が押し付ける「女らしさ」という役割(ジェンダー・ロール)であったことに気づいたのです。

「私は、女性であることは好きです。でも、『女性はこうあるべき』という社会の決めつけは窮屈。私のコアジェンダーは『女性』だけど、私の生き方は『美咲』という一人の人間のものであって、『女性一般』のものではない。トランスジェンダーの方々の苦しみとは比べ物にならないかもしれないけれど、シスジェンダーであっても、社会的なジェンダーの押し付けに苦しむことはあるんだと、改めて感じました」

美咲さんの物語は、シスジェンダーであっても、自身のコアジェンダーと社会的なジェンダー表現や役割期待との間に葛藤が生じることを示しています。コアジェンダーを理解することは、シスジェンダーの女性が「女らしさ」の呪縛から解放されるための鍵にもなるのです。

ケース4:健一(けんいち)さん・62歳・シスジェンダー男性

健一さんは、いわゆる「昭和の男」。企業戦士として猛烈に働き、家族を養い、感情を表に出すことは「男らしくない」と教えられて育ちました。弱音を吐かず、常に強くあることが、彼のアイデンティティでした。彼のコアジェンダーは間違いなく男性であり、そのことに疑いを抱いたことは一度もありません。

しかし、定年退職を迎えた時、健一さんの心にぽっかりと穴が空きました。「仕事」という鎧を脱いだ時、自分に何が残っているのかわからなくなったのです。そんな時、地域の趣味のサークルで、若い世代の男性たちと知り合いました。彼らは、子育てに積極的に参加したり、料理を楽しんだり、悩みを素直に友人に打ち明けたりしていました。

最初は戸惑った健一さんですが、彼らと接するうちに、自分がこれまで固執してきた「男らしさ」が、いかに狭く、脆いものであったかに気づかされます。

「男だから泣いてはいけない、男だから稼がなければいけない…。ずっとそう思い込んできた。でも、それは俺のコアジェンダーとしての『男性性』の本質じゃなかったのかもしれない。それは、社会が作った『男らしさ』という名の檻だったんだ。俺は、もっと自由に、泣きたい時には泣き、好きなことに夢中になる『健一』という一人の男性として生きていいんだな」

健一さんは今、地域の子どもたちに将棋を教えたり、妻と一緒に料理教室に通ったりと、第二の人生を謳歌しています。彼の物語は、シスジェンダー男性にとっても、コアジェンダーと社会的な「男らしさ」を切り離して考えることが、より豊かで人間らしい生き方に繋がることを示唆しています。


第5章:なぜ今、私たちはコアジェンダーを理解する必要があるのか?

ここまで、コアジェンダーの科学的な背景と、具体的な人々の物語を見てきました。悠真さん、あかりさん、美咲さん、健一さん。彼らの人生は、コアジェンダーという概念が、一部の特別な人々だけのものではなく、私たち一人ひとりの生き方、そして社会のあり方そのものに深く関わっていることを示しています。

では、この概念を理解することは、私たちの未来にとって、具体的にどのような意味を持つのでしょうか。

① 自分自身を深く理解し、受け入れるために

まず最も重要なのは、自己理解と自己受容への道が開かれることです。

もしあなたが、自分の性別に何らかの違和感や窮屈さを感じているなら、コアジェンダーという視点は、その感覚に名前を与え、肯定する力を与えてくれます。あなたの感覚は「間違い」でも「気のせい」でもなく、あなた自身の核(コア)から発せられる、正当な声なのです。それを理解することは、自分を責めるのをやめ、ありのままの自分を受け入れるための第一歩となります。

たとえあなたがシスジェンダーで、性別に違和感を感じたことがなくても、自分が当たり前だと思っている「自分は男性だ/女性だ」という感覚が、いかに深く、生物学的な基盤を持つものであるかを知ることは、自己認識をより豊かなものにします。そして、社会が押し付ける「らしさ」のプレッシャーと、自分自身の本質的なジェンダーを切り離して考えることで、より自由に生きるための翼を手に入れることができるでしょう。

② 他者への真の共感と尊重を育むために

コアジェンダーを理解することは、他者へのまなざしを根本から変えます。

トランスジェンダーの人々がなぜ、そこまでして自認する性で生きることを望むのか。それは、単なる「わがまま」や「選択」ではなく、人間としての尊厳をかけた、魂の叫びであることが理解できるはずです。彼らが求めるのは、特別な権利ではありません。ただ、自身のコアジェンダーと一致した性別で、安全に、そして敬意をもって生きていくという、シスジェンダーが当たり前に享受している権利です。

また、ノンバイナリーの人々が存在することを知れば、世界が「男」と「女」の二色だけで塗り分けられているわけではないことに気づきます。私たちの社会がいかに性別二元論に基づいているか(トイレ、制服、公的書類など)、そしてそれが、いかに多くの人々を排除してきたかが見えてきます。

この理解は、私たちをより良き アライ(Ally) へと導きます。アライとは、LGBTQ+当事者ではない人が、その権利を理解し、支援する人のことです。ただ頭で知っているだけでなく、なぜ彼らがそうであるのかを魂のレベルで共感すること。それが、真の連帯を生み出すのです。

③ すべての人が生きやすい、インクルーシブな社会を築くために

自己理解と他者への共感が広がった先には、よりインクルーシブ(包摂的)な社会の姿が見えてきます。

  • 学校の制服が、性別に関係なく選べるスラックスとスカートの選択制になる。
  • 履歴書や公的書類から、不必要な性別欄が消えていく。
  • 誰でも安心して使える「オールジェンダートイレ」が普及する。
  • 子どもたちが、おもちゃや色、将来の夢を「男の子だから」「女の子だから」という理由で制限されなくなる。

これらはすべて、一人ひとりのコアジェンダーを尊重することから始まる、具体的な社会の変化です。性別によって人生の選択肢が狭められたり、自分らしくあることで差別や暴力を受けたりすることのない社会。それは、ジェンダーマイノリティの人々だけでなく、社会的な「らしさ」に苦しんできたすべてのシスジェンダーの人々にとっても、より自由で、生きやすい社会であるはずです。

コアジェンダーという概念は、パンドラの箱のように、私たちに新たな問いを投げかけます。しかしその箱の底には、かつてないほどの**「希望」**が残されています。それは、すべての人が「自分」という唯一無二の存在として尊重され、輝くことができる未来への希望です。


おわりに:あなた自身の物語を始めるために

長い旅にお付き合いいただき、ありがとうございました。

私たちは、「コアジェンダー」という羅針盤を手に、性の多様な地図を広げ、脳という神秘の森を探検し、様々な人々の人生の物語に耳を傾けてきました。

この記事を通して、もしあなたの心に何かしらの光が灯ったのなら、あるいは、これまで気づかなかった扉が開いたのなら、これ以上に嬉しいことはありません。

コアジェンダーの探求は、「自分とは何者か?」という、人類が古来から問い続けてきた根源的なテーマに他なりません。その答えは、簡単に見つかるものではないかもしれません。迷い、悩み、立ち止まることもあるでしょう。

しかし、どうか忘れないでください。あなたの内なる感覚は、誰にも否定することのできない、あなただけの真実です。

もしあなたが今、自身のジェンダーについて一人で悩んでいるなら、どうか孤立しないでください。日本には、あなたの話に耳を傾け、サポートしてくれる専門家や、同じような経験を持つ仲間たちが集うコミュニティがたくさんあります。信頼できる情報を探し、助けを求めることを、どうかためらわないでください。

そして、この記事を読んでくださったすべての方へ。

明日から、少しだけ、世界を違うレンズで見てみませんか。同僚の、友人の、家族の、そしてあなた自身のジェンダーについて、固定観念のフィルターを外して、その人自身のありのままの姿を見つめてみてください。

一人ひとりのその小さな眼差しの変化こそが、社会を動かす最も大きな力となるのですから。

あなたの、そしてすべての人の「魂の核」が、ありのままに輝ける世界を願って。

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